「ボッチプレイヤーの冒険 〜最強みたいだけど、意味無いよなぁ〜」
第64話

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自キャラ別行動編(仮)
<ごめん、忘れてた>



 バハルス帝国の西、ボウドアの村の近くにたたずむイングウェンザーが所有する館。
 その2階にあるいつも使っている部屋で私はシャイナと二人、これからの行動を誰が何を担当するのかも決まって一息ついたと言う事で、お茶を飲みながらゆったりとくつろいでいた。

 コンコン

 すると不意にドアがノックされた音がする。私たちの時間を邪魔しないよう控えめにされたそのノックに私はふと、小さな疑問を覚えた。

 ん? なんだろう。まだ夕方には早いから、ユーリアちゃんたちが来たとも思えないんだけど。

 「どうぞ」

 考えていても仕方がない。私はとりあえず、訪ねて来た者を招き入れる事にした。

 「失礼します」
 「へっ?」

 私の返事を受け、そう言って扉を開けて入ってきたのは意外な人物。そこに居たのはなんと城にいるはずのメルヴァだった。

 「あれ、メルヴァ? 今日はギャリソンがアルフィンについてきているから、あなたは残ってイングウェンザー城のもろもろを取り仕切っているはずじゃなかったっけ?」
 「はい、シャイナ様。その予定でしたが、先ほどギャリソンさんからアルフィン様がこれからの行動指針を御決めなられたのできっとそれについての御話があるだろうからと連絡がございまして。彼が申すにはアルフィン様から御声がかかる前に統括者は予め館に集まっておいた方がいいのではないかと言う話でしたので、仕事は一旦部下に任せて罷り越しました」

 私同様シャイナも気になったみたいでメルヴァに何故ここにいるかのと聞いたところ、そういう理由らしい。なるほど、流石ギャリソン、仕事が速いわね。でも私が詳しい事を決めていなかったらどうするつもりだったのかしら?

 「そう。でも、指針が決まっただけで、具体的にどうするかまだ決まっていないかもしれないとは思わなかったの?」
 「それについてですが、ギャリソンさんから『アルフィン様は今夜から明日、城に御帰城なさるまで御予定を御入れになられておられます。ですからそれまでに細かい事は決めになられる事でしょう』と聞いたもので」

 なるほど、そこまで読まれてたか。

 「ふふふ、確かに先ほどまでシャイナと話し合って人選なども決めておいたけど、そこまで読んでメルヴァを呼んでいたのね。流石ギャリソン。ん? と言うより、私の行動が単純で解りやすいだけなのかしら?」
 「単純などと、そんな事はございません。アルフィン様ならば常に二手三手先を御考えになられているからと、私どもはそのように考えての行動を心がけるようにしているだけでございます」
 「ふふふっ、私もそこまで先を読んで計画が立てられるのなら嬉しいけど、流石にそれは考えすぎよ。」

 いやいや、二手三手なんてそんな先の事なんて考えてないんだけどなぁ。どちらかと言うと常に行き当たりばったりな気がするくらいだし。まぁ、そう思ってもらえているのなら私ももうちょっとがんばらないといけないわね。

 「まぁいいわ。先ほども言った通り人選までは済んでいます。詳しい話はまた城でするとして、3人とも揃っているのなら丁度いいし、簡単な説明だけでもしておきましょう」
 「はい、アルフィン様。そうおっしゃられると思いまして、ギャリソンとセルニアも1階の会議室で控えております。どうぞこちらへ」

 こうして私とシャイナは、メルヴァに連れられて1階の会議室に移動することになった。こうなった以上、話はまた城に帰ってからと言う訳には行かないし、ユーリアちゃんたちが遊びに来るまでの間にさっさと片付けてしまわないとね。



 移動した会議室では予め席の準備が出来ており、いつもイングウェンザー城で行われている会議と同じ様な環境が出来ていた。と言う訳で私とシャイナは壁際の机に座り、メルヴァたち3人が対面に座る。するとヨウコがそれぞれの前にお茶を出してくれたので、それが出揃うまで待ってからいよいよ会議開始だ。

 とりあえず一通り、さっきまでのシャイナとの話し合いで決まった事を彼らに伝える。

 「とまぁ、各案件の担当はこのような人選にしようかとシャイナと決めたんだけど、ここまでの話を聞いて何か質問や気が付いた問題点とかはある?」
 「アルフィン様、一つ宜しいでしょうか?」

 一通り説明してからその場にいる者たちに視線を送り、説明の中身について何か聞きたい事はないかと聞いてみる。すると早速メルヴァが手を上げて発言を求めてきた。

 「メルヴァ、何か問題点が見つかった?」
 「問題点と申しましょうか・・御説明の中では触れられていませんでしたが、一番危険と思われますケンタウロス探索及び対処の任に当たられますあやめ様には護衛として誰を御付けになられる御つもりですか?」

 ああ、今の話では主要なメンバーしか説明してなかったからあやめと行動を共にする者の人選をどうするのかと言う考えに至ったのか。でもね、

 「あやめには誰も付けるつもりはないわよ」
 「えっ!? しかしそれではあやめ様の安全が」
 「あやめは常に召喚精霊たちと行動を共にするし、彼女のステータスを考えるとそれ以外の誰かをつけたとしたらいざと言う時は返って足手まといになると思うのよ」

 精霊召喚士のあやめは行動する時は光や風の精霊で隠密性を上げたりできるし、探索する時は精霊を飛ばして相手の認識範囲の外から探ったりもできる。それに攻撃された時は水や土の精霊で防ぐ事もできるのよね。

 そんな行動ができるあやめだからこそ、戦う訳ではないこの任務にぴったりなのだ。それなのに誰かをつけたりしたら、いざと言う時にその者をかばう事によって予想外のピンチに陥る可能性があるし、最悪それが原因で止むを得ずケンタウロスたちと敵対行動を取らなければいけないなんて事態に陥るなんて事が無いとは言い切れないのよね。だからこそ、あやめはソロ活動させた方がいいと私は考えている。

 「それにね、縄張りを侵害したのはこちらの方なのだから私としてはケンタウロスとはなるべく戦わないで済ましたいと思っているのよ。だからこそ、人数は最小限がいいと思う。数が多ければ相手に、より強い警戒感を与える事になるしね。その点あやめならまだ子供だから相手もそこまで警戒感は持たれないでしょ。そしてメルヴァも解っているでしょうけど、あやめは強い。たとえ戦いになったとしても、彼女を傷つける事が”この世界の”ケンタウロスにできるとは私には思えないのよ」
 「確かにその通りですが・・・」

 私の説明を聞いて、頭では納得しても感情的に納得しきれないと言う様子がメルヴァの顔からはありありと伝わってくる。でも、ここで譲歩しても仕方がないからきっぱりと言い切ってしまおう。その方がメルヴァも諦めが付くだろうしね。

 「とにかく。ケンタウロスの案件はあやめに一任します。これは決定事項です」
 「解りました。御指示に従います」

 とりあえず、私の言葉に頭を下げて了承の意を示すメルヴァ。
 断腸の思いと言った顔ではあるけど、何とか折れてくれたみたいだね。心配してくれての発言だと言うのは私も解っているからちょっと可哀想にも思えるけど、ここは心を鬼にして話を先に進める事にする。

 「他には何かある者はいない?」

 この後いくつかの細かい質問に答えた。
 その中にはどの程度の技術を伝えるかだとか、それぞれの任務にかかるであろう期間は? なんてのもあったんだけど、作戦をきちんと煮詰めてからじゃないと決められない事もあるのよね。と言う訳で今私が予想できている範囲の事はこの場で説明し、しっかりと計画を立てないと決められない物は後日イングウェンザー城でみんなで話し合って決める事にして、この事前会議は終了した。



 会議そのものはそれほど長引きはしなかったものの始まった時刻が比較的遅かった為に太陽は傾き始めており、ユーリアちゃんたちがこの館を訪れる時刻が迫っていた。

 「思ったより時間が掛かってしまったわね。セルニア、準備は出来てるわよね?」
 「はい、アルフィン様。ミシェルさんが指揮を取って館の中の準備を、そしてサチコさんがユーリアさんたちをお迎えに村へと足を運んでいるはずですよ」

 本当は私が迎えに行きたかったけど、この会議が入ってしまったから仕方がないわよね。
 と、そこへ予想外の人の言葉が割り込んできた。

 「アルフィン様。先ほどギャリソンさんが申していた御予定と言うのは、マイエル姉妹の館訪問でしたか」

 ビクッ!
 ギギギギッ

 メルヴァの一言で体に緊張が走り、まるでさび付いた機械のようにゆっくりと視線を彼女の方に向ける。

 めっメルヴァさん、ギャリソンから聞いていなかったのですか?

 怒られるなんて事は無いわよね。でもユーリアちゃんたちと遊んでいると、いつもメルヴァが仕事しなさいと怒ってくるんだよなぁ・・・。

 でもでも! 今日は私、ちゃんと仕事したもん! 怒られるような事にはならないはずよね。

 「そっそうよ。今日は領主の館を訪問したりこれからの行動指針を決めたりとかしてがんばったから、ユーリアちゃんたちと遊んでリフレッシュしたいのよ!」
 「アルフィン様、どうなされたのですか? 私は確認をしただけなのですが?」

 私の態度に困ったような顔をするメルヴァ。あれ? 遊ぶ予定を立てていたから、それを知って怒ってるわけじゃないの?

 「あっあれ? メルヴァ、今日は仕事しなさいって怒らないの?」
 「アルフィン様、あなた様の中にある私のイメージは常に怒っているのですか? 私がアルフィン様に御注意申し上げるのは職務を放り出して遊ばれている時だけです。今回のようにきちんと御仕事を終えられ、その後に遊ばれるのを怒った事など、今まで一度も無いはずですが?」

 うっ、確かにその通りです。

 「そうだよアルフィン。メルヴァは仕事の時間になってもそのまま遊び続けるアルフィンを毎回呼びに来ているだけだし、それまでの時間はちゃんと遊ばせてくれるじゃないか」
 「でも、シャイナはいつもそのまま遊び続けているじゃない」
 「だって私、仕事ないし」

 ふふ〜ん、なんて言いながらシャイナは私に向かって豊満な胸をそらす。なによそれは。あまり無い私に対するあてつけ? いやいや、それは考えすぎか。

 確かに戦闘と警備担当であるシャイナは普段から仕事らしい仕事は殆ど無いし、この村にいる時に限って言えばまったく無いと言ってもいい。だから私が引き摺って連れて行かれる時はいつも、同じ立場であるまるんと一緒に子供たちと手を振ってお見送りしてるのよね。

 もう! 悔しいからこれからはボウドアの村に来た時はあの二人にも何か仕事を与えようかしら。

 「あっアルフィン、私に仕事あてがおうなんて考えても無駄よ。だって私、戦う事しか出来ないもの」
 「あ〜、自分でそれを言うか」

 でも確かにその通りなのよねぇ。まぁ、そのように作ったのは私なのだから自業自得と言えばその通りなんだけど。

 それはともかくメルヴァの御許しがでた事だし、今日は安心してユーリアちゃんたちと遊べるわね。

 「アルフィン様、それでは私はこれで城に帰ります。御予定では明日はこの村を、昼食を取られてから出発されての御帰城との事ですが、馬車での行程でしょうか? それとも途中でゲートをお使いになられますか?」
 「そうねぇ。人目さえなければ速度を上げても問題ないし、ゲートを使っても30分も変わらないだろうからそのまま馬車で帰ることにするわ。ちょっと確かめたい事もあるし」
 「解りました。それでは御帰城を御待ちしております」

 そう言うとメルヴァは一礼して会議室を出て行った。彼女、これから帰って仕事するんだろうなぁ。たまには休めば? って言うんだけど、NPCたちって黙っているとホントずっと働いているのよねぇ。ゲームキャラクターだった名残なんだろうけど、生身になった以上休みを取らなければ体を壊しそうだし、今度強制的に休ませる方法を考えないといけないわね。



 それからしばらくして、

 「こんにちは、アルフィン様、シャイナ様。本日はご招待ありがとうございます」
 「こんにちわぁ! ごしょーたい、ありがとございます!」
 「こんにちは、ユーリアちゃん、エルマちゃん。今日はゆっくりして行ってね」
 「おっ来たね。ちゃんとお父さんとお母さんに今日お泊りしてもいいか聞いてきたかな?」

 ユーリアちゃんとエルマちゃん姉妹がメイド服に着替えたサチコに連れられて館にやってきた。
 ふふふ、今日はもうメルヴァに邪魔される心配は無いし、心行くまで遊ぶぞぉ〜。



 ユーリアちゃんたちと夜遅くまで遊び、朝も一緒に食事をした後お見送り。と言いつつ、村まで付いて行ったけどね。だってこれでしばらくは会えなくなるし、たまにはゆっくりと彼女たちと一緒に外を歩きたかったし。ただその結果、私の訪問を聞いた村長が慌てて飛んできたり、その後マイエル夫妻に申し訳なさそうに何度も「ありがとうございます」と頭を下げられたりと、ちょっと困った事にはなったけどね。

 まぁ折角村長に会えたことだし、領主訪問で決まった農業指導について少しだけだけ話をしておいた。次ここに来るのは多分アルフィンだろうし、私の考えを予め話して置けたのはよかったんじゃないかなぁ? 予め話をしておく事は、この後を考えたらどうしたって悪いようには転がらないだろうからね。

 結果、この話のおかげで時間も昼食時になってしまったので、館から簡単な料理を運ばせてマイエル一家と昼食を取る事に。この時、館で留守番をしていたはずのシャイナも昼食を運んできたメイドたちにちゃっかり付いて来た。まったく、抜け目無いわね。

 食事の後はシャイナもついて来た事だし、館まで帰る必要も無いからと馬車を村の入り口まで移動させて、そのまま帰城する事にした。そのせいで村人総出でのお見送りになってしまってちょっと気恥ずかしい思いはしたけど、帰る寸前で少しの時間だけでも他の村の子供たちとも交流できて有意義な時間ではあったわね。



 ボウドアの村を出てしばらくの間、私は馬車に揺られていた。馬車の時速は約80キロ。もっと出せない事は無いけど、ある程度整備したとは言えまだ敷石をしていない道はフラットな路面ではないし、サスペンションがあるとは言えこの速度でさえ偶に車体が跳ねるような状況が起こる事を考えると、"今のこの馬車の性能"ではこれ以上の速度で走るとかなり乗り心地が悪くなってしまう事だろう。

 「ねぇアルフィン、そう言えばさっきメルヴァに確かめたい事があるから馬車で帰ると言っていたけど、何かあるの?」

 そんな事をぼ〜っと考えていたらシャイナが先ほどの話を思い出して聞いてきた。まぁ、疑問に思うのも解るわよ。だって、今この馬車は窓のカーテンがかかっていて外が見えないようになっているもの。これは別に何か意図があった訳じゃなくて、午後になって傾きかけた太陽がまぶしかったから閉めただけなんだけど、確かめたい事があると言った割には外も見ないから不思議に思ったんだろうね。

 「ん? ああ、それについては帰ってから話すわ」
 「そう、なら別にいいけど」 

 別に今話してもいいんだけど、二度手間になるしね。
 そんな事を話していると、馬車の揺れが殆ど無くなった。と言う事は道が完全に舗装された場所に入ったと言う事なのでカーテンを開けてみると、そこはやはり綺麗に整備された庭の中。イングウェンザー城の敷地内に入ったと言う事ね。そして馬車は徐々に速度を緩め、やがて城の城門の中に入って入り口前で静かに停車した。

 これがどこかに出かけた時ならば扉に一番近い位置に座っているミシェルが外に出て、御者台に座っているセルニアと一緒になって私たちが降りる準備を始めるのだけど、ここでは城の者がその準備をする。だから彼女もおとなしく私たちと一緒に馬車の中で待っていた。

 やがて扉が開け放たれるとミシェルは真っ先に降りてそのまま扉の前に立ち、出迎えている者たちに向かって、

 「アルフィン様、シャイナ様、御帰城でございます」

 と声にしてから、扉の横に控えて頭を下げた。

 これ、馬車での帰城する時に必ずやると取り決められた儀式なのよね。

 ゲートで帰る時はいきなり現れるから準備できないけど、馬車ならばかなり遠くからでも帰城が解るのだから絶対にやらなければならないとの進言(いや、懇願かな?)がメルヴァからあってやり始めた事だったりする。

 なんと言うかなぁ。身内しかいないんだからここまでしなくてもいいのにと私は思うんだけど、メルヴァから「至高の御方々に相応しい御振る舞いをして頂かなければ私ども臣下の者が困ってしまいます」と言われてしまった以上仕方ないのよね。この言葉を言い出したメルヴァは絶対引かないんだもの。まぁ、その分他の村とかではやらないと言うのだけは納得させたから、ここくらいでは我慢しよう。

 「御帰りなさいませ、アルフィン様、シャイナ様。御帰城、御待ちしておりました」
 「ただいま、メルヴァ」

 入り口前、左右にずらっと並ぶメイドたちと、入り口前に一人立つメルヴァ。私たちがギャリソンにエスコートされて馬車から降りたのを確認すると、早速彼女がやわらかい笑みを浮かべて声をかけてきてくれる。そして私がそれに対して帰城の挨拶を返すと言うここまでが決められた儀式なのよね。因みにメルヴァが供をしている時はギャリソンが代わりにこの役をやる事になっている。城の管理の為に、どちらかは必ず城にいるからね。

 因みにこのやり取りが少しだけ気恥ずかしく、そして面倒でもあると言うのが普段は時間的にあまり関係ないにもかかわらず、殆どの場合わざわざゲートを開いて帰ってくる理由の一つだったりする。

 「みんなご苦労様。持ち場に帰ってくれていいわよ」

 城の中に入り、振り返って私がそう言うとメイドたちは何かをやりきったとでも言うような晴れ晴れとした顔で持ち場に帰っていった。普段はあまりやらない事だからなのか、みんな本当に満足そうね。

 あの姿を見ると、たまには馬車で帰って来た方がいいのかなぁなんてつい考えてしまうわ。だって、ホントうれしそうだもの。

 それはともかく、様式美とも言える儀式も終わった事だし仕事に戻るかな。

 「メルヴァ。私はこれから地下1階層の大型作業区画に行くから、あやめとあいしゃ、後アルフィスを呼んできてもらえないかしら?」
 「解りました、アルフィン様。しかしその御三方だけで宜しいのですか? これからの事を御話になられるのでは?」

 ん? ああ、そうか。昨日の続きを話し合うと勘違いしたのね。でも、呼ぶメンバーにまるんが入っていないのだから、これからやる事は当然その話じゃない。

 「ああ、それはまた後日でいいわ。今はそれとは別件でとりあえず先にやりたい事があるのよ。後シャイナもついてきて。本当は特に必要は無いけど、さっきの質問の答えもあるからね」
 「質問の答え? ああ確かめたい事って言うあれね」

 そう、馬車の中で私が確かめていた事がこれからの事に関係するのよね。
 私たちはそのまま歩いて地下1階層へ。調理場や各種生産品の作業場を抜けて大型作業区画へと進む。するとそこには、すでにあやめたちの姿があった。

 「あら、あやめたちの方が早かったのね」
 「うん。だってあたしたちは指輪を使って転移してきたからね」

 ああ、そう言えばそうか。私たちはついて来ているギャリソン達が持っていないからギルド内転移の指輪が使えないけど、この子達は別に使わない理由は無いものね。

 「そっか。まぁ、みんなそろっているみたいだから早速話を始めましょう。あやめ、あいしゃ、二人には馬車の足回りを作ってもらうのにちょっと苦労してもらったよね」
 「ベアリングやサスペンションの事? うん、あれはちょっと苦労したね。だってマ・・・アルフィンもあまり詳しくなかったから図書館とかで調べながら作ったし」

 それについてはよく覚えている。二人して色々な本を調べながら苦労して作っていたものね。

 「それについてだけど、実は謝らないといけない事があるのよ」
 「謝らないといけない事?」

 私の言葉にあやめとあいしゃが頭にはてなマークを浮かべる。まぁ、これだけでは当然そうなるわよね。と言う訳で足らなかった言葉を補足する為に話を続ける事にする。

 「それについてだけど、アルフィス」
 「ん!? なんです?」

 ここで自分の名前を呼ばれるとは思っていなかったアルフィスは、急に声をかけられて驚きながら私の顔を見つめてきた。

 「あのさぁ、あなたが作れるマジックアイテムの中に<コンフォータブル・ホイールズ>って言うアイテム、あったわよね?」
 「ああ、荷台の揺れを少なくする車輪型のアイテムだろ? ああ、あるよ」

 そう、ユグドラシル時代は物を運ぶための荷台につける、揺れを小さくしたり車輪の回りをよくして重い物でも簡単に運べるようにするマジックアイテムだった物だ。

 「そのアイテムだけど、正式名称を言ってもらえるかしら?」
 「正式名称? ちょっと待てよ。えっと・・・<快適な車輪/コンフォータブル・ホイールズ>だな・・・って、快適な車輪!?」

 そうなのよね。馬車なんて使わなかったゲーム時代では荷台用のマジックアイテムだと思っていたこれ、快適と言う言葉が指す様に馬車の車輪につけるマジックアイテムみたいなのよ。そしてその話をカロッサさんから聞いて、私はめまいがするほど驚いたわ。だって知っているアイテムで、なおかつアルフィスが作れる事も知っていたんですもの。

 「私もうっかりしていたわ。ユグドラシルでは移動に馬車なんて使わなかったし、荷台なんてアイテムボックスの容量が少なかった時代くらいしか使わなかった死にアイテムですもの。すっかり忘れていたのよ」

 この私の言葉にあやめとあいしゃの顔が暗くなる。

 「待って。と言う事はもしかしてあたしたちの苦労は・・・」
 「ごめん。もしかしたらしなくてもいい苦労だったかもしれない」
 「そんなぁ〜」

 それを聞いてうなだれる二人。うん、二人の苦労を知っているだけに、私も申し訳ない気持ちでいっぱいだよ。



 この後アルフィスに<快適な車輪/コンフォータブル・フォイールズ>を作ってもらって調べたんだけど、このアイテムをつけただけの馬車に乗って先ほどの行程での乗り心地と比べてみたところ、少しだけこのマジックアイテムを使った馬車の方が乗り心地がよかった。

 でも同時にこれは揺れを軽減するだけのマジックアイテムで、揺れがまったく無くなる訳ではない事も解ったから、サスペンションと併用する事でより快適な馬車になる事も解ったのよね。

 そう、あやめたちの苦労はまったく無駄だったと言う訳ではなかったのよ!

 「でも、一番苦労したベアリングはまったく無駄な物になってしまったけどね・・・」
 「ホントごめん・・・」

 存在は知っているはずだっただけに、本当にすまない気持ちでいっぱいになるアルフィンだった。


あとがきのような、言い訳のようなもの



 サスペンションは最初から目処が立っていたけど、ベアリングの小さな玉にはホント苦労していただけにそれが無駄な努力だったと知った時はきっとショックだったでしょうね。

 ユグドラシル時代は馬車を使っていないと言うのは本編には出てこない設定です。でも町と町の移動はゲートだったし、個人的な移動は馬や騎乗用のモンスターを使っているようだったので無いのではないかと私は考えてこのような設定にしました。何より、召喚できる騎乗用動物と違って馬車は目的地に着いたらアイテムボックスに収納しないといけないですからネットゲームではあまり見かけない移動手段ですしね。


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